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 8月上旬に6日間の夏休みをとった。

 前後の日曜日を含めると休暇は8日間あったが,前の日曜を代理ドクターへの申し送りを主とするカルテ記載と旅支度のために費やし,後の日曜は身体を休めるために除くのが妥当,実質6日間の日程で北海道旅行に出かけることになった・・・言うまでもなく真子とふたりで。

 北海道を鉄道主体で移動するとなると,短期間に多くの名所を巡るのは困難であろうし,宿泊する場所を考えて予定を立てるのも厄介である。それで車に乗って行き当たりばったりの旅をすることに決めたのだった。

 月曜日になった深夜1時過ぎ,コロナクーペで金沢を出立する。

 

 北陸自動車道を途中で仮眠をとって新潟まで,そのあと国道7号へすすむ。早朝に五十川なるJR駅のトイレを失敬し,朝のうちに鳥海ブルーラインを登って大平展望台で一休み。鳥海山は見えずとも意気はますます盛んになり,秋田県に下りて7号をひたすら北上する。大館より国道103号へ曲がって15時前には十和田湖に到着。休屋から遊覧船に乗って湖上をめぐり,展望スポットごとに降りては見て一周道路をドライブ,十和田神社にお詣りしてから貸しボートで湖水を楽しみ,湖畔を散歩して息をきらし,ホテルのテラスで少々のビールで乾杯,それから夕食をとってゆっくりと休憩する。奥入瀬渓流は真っ暗闇で堪能できる状況ではない。あきらめて青森へくだり,午前1時過ぎ発の青函フェリーに乗船して船中泊することになった。

 火曜日,午前5時過ぎ函館に着く。まず函館山とその周辺を駈け回ってから出発。大沼を観て駒ケ岳を眺めながら国道5号を北へと向かい,長万部で国道37号へ分かれ,礼文華峠付近で『峠の家』というラブホを見つけて中休み。風呂に入ってすっきりしたものの洞爺湖をまわる余裕なし。登別室蘭ICより道央自動車道をはしり,霧が深くなって一たん札幌南ICで一般道へ降りる。しかし道路事情から時間が足りなくなると判断,Uターンして再び道央自動車道に入り旭川へ直行。高速を降りてからも休むことなく国道40号を全速で飛ばし,19時30分頃ようやく稚内に到達。駅の観光センターへかけこみ,そこで紹介してもらった旅館に飛び込みで宿泊した。この日,国道40号の周りに広がる澄んだ森の深緑にいたく感動,また旅館ちかくの居酒屋で食べた大粒のイクラおにぎりの美味しさが今なお忘れられない。

 水曜日は午前6時にスタート。ノシャップ岬と稚内公園を巡ってから,宗谷岬をたっぷり満喫。そののち国道238号の海岸線を南下,知っているつもりでも土地の広大さを目のあたりにして驚嘆する。紋別サロマ湖,ノトロ湖を経て,12時に網走の三眺で昼休み。もちろん鏡橋をわたり刑務所前を見学,午後には原生花園駅に寄り道し,斜里から知床横断道路に向かい,オシンコシンの滝を観覧。ウトロ・知床峠羅臼を通り抜け,国後島を見渡しつつトドワラ・ナラワラ見たさに野付半島へ立ち寄った。展望台で真子が望遠鏡をのぞいて「あっ」と叫ぶので,何事かとおもえば滅多にみかけない荷馬車の光景。国道244号に戻るも半島を回ったおかげで焦りまくって根室に至り,17時30分納沙布岬に達する。岬をまわり,売店で花咲蟹を一杯ずつ食べて外へ出ると,はや薄暮れ。根室から国道44号で釧路に着いたのは夜遅くのこと,やっとのことでラブホを探しだし宿泊。ホテルでは時刻と二人の名前を記した日本最北端到着証明書を前にして祝杯をあげる。そういえば宗谷岬からはサハリンがおぼろげに望まれ,開拓者魂のような男のロマンが掻き立てられた。いつか再びこの地に立ってみたい,そう夢みたのが懐かしいかぎり。

 木曜日,弟子屈から待望の摩周湖へ行く。第一展望台,第三展望台とめぐるも残念ながら一面が霧で覆われていた。埋め合わせにレストハウスでイヤリングを買って真子にプレゼント。屈斜路湖まで足を伸ばして砂湯の湖畔でアイヌの人たちと写真撮影,弟子屈にかえって阿寒湖へ向かう。道のながれで国道241号をはしり,足寄で買い出し,帯広を通りぬけて国道236号から国道336号へ入り,15時30分襟裳岬に到達する。雨風が吹き荒れるなか,岬のできるだけ南端へ歩いて行ける所まで,途中から真子と手をつないで挑んだ。身に当たる厳しさも妙に心地よい。いい気分で海岸線沿いに国道235号を苫小牧まで,つぎに道央自動車道へすすんで北上し,札幌ICで降りて市内で一休みしたのち,札幌西ICから札樽自動車道へ入って夜中には小樽に至る。疲れきって探しまわる気力はなし,旅の恥はかき捨て,コンビニの若い店員に教えてもらい,その日もラブホに泊まる。風呂上がりにビールを飲んでいると,いけないと思ったけど摩周湖で摘んできちゃった,と真子がクマザサを手にして微笑んだ。彼女が辺りのものを手折ってしまったのは,もしや霧のなせるわざではなかったか。

 金曜日は小樽市内を散策する。腹を空かせて寿司屋で昼飯を食するが,観光客用で期待したほど美味しくない。神威岩をたずねて積丹をぶらぶら,あっという間に時間が過ぎ,あたふたと国道5号に戻る。ニセコを通って長万部から往路を逆走。ところが23時前,八雲で怖れていた事件が勃発する。夜中なのに待伏せパトカーに追跡され,追越し禁止違反で捕まってアウト! 速度超過と合図不履行の違反は目をつぶってやると警察官に恩着せがましく言われ,よけい汚いやり口に腹がたつ。精神的に落ちこむも函館まで懸命に運転,午前2時台の青函フェリーに乗って往きと同じく船中泊する。今にして思えば反則金が九千円で済んだのは警察官の配慮だったかも。

 土曜日の早朝に青森に到着。どうしても奥入瀬渓流を遊歩したくて国道103号を再度十和田湖へ上る。銚子大滝の上流に車をとめ,白絹の滝までを1時間余りで歩き味わって往復する。子ノ口で昼の腹拵えをして湖畔のドライブをもう一度楽しんだあと,瞰湖台で十和田湖を見納めて旅の終りを惜しみながら急いで帰路につく。大館から国道7号に入り,二ツ井町のきみまち阪で米代川と対面し,さらに能代までいって休憩。秋田からは夜の日本海を眺めては時々一服,新潟で北陸自動車道にすすんで仮眠をとっては運転する。

 日曜日午前6時前,金沢着。

 ビールを飲んで無事にフィニッシュしたことを喜びあうも,一缶空けないうちに眠りこけていった。